たびゅーはきょーる。
前回に続き、岡山弁のお話です。
今回は「足袋」についてです。
前回でも説明したように、岡山弁では名詞に格助詞「は」「を」「に・へ」が接続する時は前の名詞と融合して発音される。これを名詞の曲用と見ることもできるとされています。
「足袋」で名詞の曲用があると、
たび(は)→たびゃー
たび(を)→たびゅー
たび(に・へ)→たびー
と発音します。
ですから題名の「たびゅー」=「たびを」となります。
(たびゃあ、たびゅう、たびい、と表す向きもありますが、ここではウィキペディア岡山弁にそった表記をしています)
では、「はきょーる」の説明ですが...
標準語では、動詞の進行態を「〜(し)ている」と表現しますが、岡山弁では「〜ょーる(ゅーる)」と言いますので...
「履く」の進行態「はいている」が「はきょーる」となります。
(仮定型は「はきゃー」ですが、岡山弁の活用を説明し始めると沼にハマります...)
ちなみに、
「読む」の進行態は「よみょーる」
「起きる」の進行態は「おきゅーる」
となります。
「読む」の仮定形は「よみゃー」
「起きる」の仮定形は「おきりゃー」
ですが、やめましょう...
岡山弁の沼にハマります...
ただし、ここからがややこしい所です!
【アスペクトの区別】
標準語では「動作の進行を表す相(アスペクト)」と「完了や経験などのほかの相」を、いずれの場合でも同じ「〜(し)ている」と表現します。
ですが、中国方言・四国方言・九州方言では「進行相」と「完了相その他」とに対して別々の表現をするのが普通です。
岡山弁では前者を「〜ょーる(ゅーる)」、後者を「〜とる」と区別します。
「履く」の「進行相」が「はきょーる」
「履く」の「完了相その他」が「はいとる」
となるのです。
すなわち、
標準語で「履く」の進行態「履いている」では、「履いている途中」なのか、あるいは「履き終わったorすでに履いていた」のかの区別がありません。
岡山弁では「履いている動作の途中」を「はきょーる」、「履き終わったorすでに履いていた」を「はいとる=へーとる」と区別があります。
したがって...
「たびゅーはきょーる」とは、「今、足袋を履いている途中ですよ」となります!
岡山弁って、なかなか奥深いでしょう!
前出の
「読む」の「進行相」は「よみょーる」
「読む」の「完了相その他」は「よんどる」
「起きる」の「進行相」は「おきゅーる」
「起きる」の「完了相その他」は「おきとる」
となります。
さて、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」
雉真千吉役の段田安則さんは見事に岡山弁を扱っておられます。
セリフは全国的に理解され易いようにマイルドな岡山弁になっていますが、「足袋」の名詞曲用を上手に言い分けていました。
回復しつつあった安子の父「橘金太(甲本雅裕=岡山市出身)」と千吉の会話より...
金太
「そうですか、雉真さんの本社工場も...」
千吉
「じゃけど、水島の工場は無事で“たび”(曲用無し)の生産を続けとります。
うちは戦時中、軍の仕事を請け負うとりましたから、良う思わん人もおるでしょうが、”たびゅー“(足袋を)作り続けた事を評価してくれる人もぎょうさんおってくれます。
いずれ稔が帰って来たら”たびー“(足袋に)学生服に加えて、何か新しい事業を始めよう思うよります」
金太
「早よー戻られるとえーですなー」
千吉
「算太さんも...」
2人の父親が、縁側で息子達の帰還を願うのでした。
穏やかな復活をイメージするシーンでしたが、この後の展開に視聴者は絶句し涙しました...