手技療法検証の難しさ | セラピスト・ラプソディー♪ ~真の健康をめざして~

手技療法検証の難しさ

【Evidence based Osteopathic Therapies(根拠に基づいたオステオパシー療法)・・・③】



手技療法の検証は非常に難しいとされています。


まず、“手技”は施術者(セラピスト)の技量により、効果が大きく変わってきます。

薬であれば、誰が投薬しようが、注射しようが、まず差異はないと考えられます。(症状・投薬時期などの医師の判断能力による差異はありえる)

手術的治療であれば医師の技量による差異は考えられますが、たとえば患部の摘出・レーザー照射など何を施術したかははっきり提示できます。



もちろん、施術者による技量の差は、高度手術ではありえます。

“匠の手”と呼ばれる上山医師は、

「難しい手術はあっても、出来ない手術は無い・・・。出来ないというのは医師の怠慢であり、勉強不足である」と仰います。

しかし、上山医師がどこかの手術室で突然「手術しろ・・・」といわれても、高度な手術が出来るわけでは無いのです。

上山流の高度手術には、上山先生がオリジナルで開発したメスなどや手術用の顕微鏡などのが無ければならないそうです。

“神の手”と呼ばれる福島医師も、緻密なオリジナル器具を開発しており、それが無くて普通の器具であれば神の手も発揮できないそうです。



ところが、オステオパシー手技療法ではこの“器具”となるものが“手”そのものですから、個人差は当然現れます。

施術者の習熟度で効果は大きな差異が発生してしまうのです。


たとえば、基礎テクニックとなる“筋膜リリース”での拇指押圧(親指の腹で持続的な圧をかける)のテクニックでも、熟達者と初心者では全くの違いが現れます。

何せ器具となるのは"手”そのものですから、その器具(手)の性能の差は歴然と現れるのです。


「同じテクニックを使用しても、施術者の技量により効果に差異が生じる事がある。」

「誰が施術しても同じ効果が出るわけではない。」


となれば、おのずと熟達者の施術による臨床と結果の検証が必要になります。


検証にしても、薬などの効果のように血液検査などのように数値検証できるわけではない痛みや不調などの主観などの事の方が多いので、クライアント(患者)の主観(痛みなどの主観を数値的にあらわす必要があることは後に述べますが、ビジュアル・アナログ・スケールで表します)の他に、熟達者のモーション・パルペーション(可動検査法)などで検証する必要があります。



我々は、研究者ではなく臨床家です。

ほとんどの手技療法の臨床家は、一人で業務(施術)を行っています。

必然的に、施術と検証は同一人物が行うようになるでしょう。

「それで、客観性が保たれるのか?」


また、医師でない(日本の医師ではオステオパシーの熟達者はほとんどいません)オステオパシーのセラピストが取りまとめた臨床データが信頼されるのか?

オステオパシーに関わる者の希望的主観が臨床結果を誘導しないか?(中立性が保たれるか?)

これらが、大きな問題です。



アメリカでは国立衛生研究所(National Institute of Health=NIH)の国立相補代替医療研究センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine=NCCAM)が、「カイロプラクターを医療士として認めるかどうか」、「カイロプラクティックの効果と安全性・危険性など」を検討し政府に報告することになっています。

ところが、NCCAMからカイロプラクティックを評価するために研究費を受けているのが、カイロプラクティックの大学であるパーマー大学病院です。

カイロプラクティックの大学がカイロプラクティックについて否定的な報告を出すわけがありませんから、中立性に対して疑問視されているのです。



薬などの臨床試験では『無作為管理臨床試験Randomized Controlled Trial=RCT』という試験手法が最も信用性があるとされています。

RCTを簡単に言うと、

薬が入ったカプセルと、入っていないカプセル(疑似薬)を作り、

 「患者を治療群と非治療群に無作為(ランダム)に振り分け・・・」

 「治療者(薬を渡す者)もどちらのカプセルかわからない状態で・・・」

 「患者もどちらのカプセルかわからない状態で・・・」

治療者も患者も本物の薬かどうかを知らない状態(二重盲検Double Blind)で行う試験です。

実際には、結果を調べる研究者も何を調べているか知らされずに検査をしますので、"三重盲検”になります。



二重盲検(ダブルブラインド)が必要なのは、

治療者側の「この人は疑似薬だから症状が改善しないはずだ」といった思いこみ・・・

患者側の「この薬は本物のはずだから症状が良くなるはずだ」といった思いこみ(プラシーボ効果)・・・

による先入観(バイアス)を排除し、客観的な研究結果を出すためです。



しかし、我々が日常行う業務の中では"無作為管理”は行うすべが無く、来院するクライアントは施術を受けに来るのですし、何を行うかインフォームド・コンセントをするのですから、"二重盲検”になりようがありません。


そこで、PROBE法(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint method)と呼ばれる手法があることを知りました。

「手術の2つの術式でどちらが有効かを決める際には、二重盲検法をとることは事実上不可能であるので、このような場合、結果を検証する評価者に治療内容を知らせず盲検(ブラインド)に保つことにより、先入観(バイアス)を排除することができる」としたものです。

「二重盲検法がとられていることはその臨床試験が優れているこを保証するものではなく、先入観(バイアス)を減らす一手段がなされているということを意味するのみだ」と考えるからです。



やはりそれでも通常一人で業務(施術)を行う施術院では、他にブラインドを保った評価者がいるわけではありません。(当方ではアシスタントはいますので、これを行えないわけではありませんが・・・)

したがって、「施術者が自分で検証する(ブラインドが保てない)ことになる状態では、臨床データを取りまとめても実証度・信頼度ともに低く、医学界では相手にされない」と思っていました。



ところが、先般の東洋オステオパシー協会幹部会でリハビリテーション大学院大学で助手を勤めておられる先生(医科大学大学院在籍)から、

「ブラインドが保たれなくとも、きちんと臨床データを集積し取りまとめたものは研究データとして実証度はある。臨床データを取った者が誰であろうと(非医師であろうと)信頼性を疑われるものではない・・・」といった趣旨のお話を伺いました。

これで、展望が開けた気がしました。

(それを伺ったことが、この記事を書こうと思ったきっかけです。)



協会には医師の方もいらっしゃいます。

個人個人が臨床データを集積し、その方々とデータを精査し体系的に取りまとめて行けば、RCTで言うところのコントロール(管理)された臨床試験でなくともエビデンスにはつながると思われますし、臨床データを集積することは日本でのオステオパシーの将来のためには有意義だと思うのです。

    

~take care~